2022年05月09日
麺たちの温泉旅行
スパゲッティ伯爵と、うどん男爵と、生そば子爵の仲良し三人組。
彼らは製麺所から出荷される前にささやかな休暇を取り、東北へ温泉旅行にでかけた。
インターネットで予約したのは、源泉かけ流しの露天風呂。
湯温はちょっと熱めの98℃だ。
宿に旅装を解くと、浴衣に着替え、さっそく露天風呂に向かう。
「ああ、いいお湯だ……」
三人は温泉に浸かりながら、将来の夢を語り合った。
「僕はスパゲッティ・ナポリタンになるつもりだ」
「私は天ぷらうどんがいいな」
「俺は鴨南蛮そばになるのが夢なんだ」
三人の瞳は未来への期待できらきらと輝いている。
しかし人生は思い通りにならないものだ。
料理の世界では、食材自身の希望よりも、食べる人の意向が優先される。
その掟に従い、彼らはペペロンチーノ、月見うどん、ざるそばとして食卓に供された。
posted by 沢村浩輔 at 01:13| Web小説