2022年01月06日

明けましておめでとうございます


本年も『抜け道だらけのブログ』をよろしくお願いします。


今年最初に見た夢の話などを。

 夢の中で、あまりの暑さで目が覚めた。
 暖房を入れていない真冬の室内がなぜこれほど暑いのか。
 理由は分からないが、喉がカラカラだった。
 とりあえず水を飲もうと廊下に出ると、異常な暑さの原因が判明した。
 サラマンダー(火のモンスター)が家の中に入り込んでいたのだ。
 暑いわけだ。何しろ火でできている生き物である。
 サラマンダーは私を見ると、砂漠でオアシスを見つけたような笑顔で近づいてきた。
 熱風で前髪がチリチリと焦げる。
「ちょっと、何してるんだよ、人の家で!」
 あまりの暑さに、カッとなって私は文句を言った。
「実はこれから里帰りをするんですけど……」私の剣幕に驚いたのか、サラマンダーは上目遣いでおずおずと言い訳をした。「お土産を買ってないことに気がついたんです。でも、気がついて良かった」
 サラマンダーは胸を撫で下ろした。
「手ぶらで帰ったら、常識のない奴だと思われてしまいますからね。危ないところでした」
……いや、勝手に人の家に上がり込んでる時点で非常識だろ。さっさと土産物店に行け。
「何しろ、三十万年前に故郷を出て以来、初めての里帰りなんです」
 三十万年ぶりの帰省か。ちょっと感動的な話だった。
「……それは、楽しみだね」仕方なく、私は相づちをうつ。
「そうなんですよ」私とは対照的に、サラマンダーの声は弾んでいる。「みんな、元気かなあ。早く顔が見たいよ」
 だったら、こんなところに寄り道していないで、早く故郷のみんなに顔を見せてやれよ。
「お土産、何がお勧めですか?」
 サラマンダーが私に訊ねた。
「いや、お勧め、と言われても……」
 モンスターが帰省する際の手土産は何がいいのかなんて、まったく想像がつかない。
 しかし答えない限り、こいつは帰らないだろう。
「そうだな」私は必死に頭を絞って考えた。「お菓子とか、食べる物にしたら? ご家族の好物を土産にすれば、きっと喜ばれるよ」
「なるほど。それは良い考えですね」サラマンダーはポンと手を打った。「では、あなたのアドバイスに従って、蚊をお土産にします」
「か?」私はきょとんとした。
「そう、蚊です。私たちは蚊を主食にしているのです」
「ええと、蚊というのは、夏に人を刺す、あの蚊のこと?」私は、まさかと思いながら訊ねる。
「ええ。その蚊です。どこで売っていますか?」
 私は返事に窮した。蚊を売っている土産物屋など世界のどこにもないだろう。
 だが、そう答えてしまえば、会話がまた振り出しに戻る。それだけは避けたかった。すでに私は脱水症状の一歩手前だ。これ以上サラマンダーと話していたら熱中症で倒れてしまう。
 サラマンダーは蚊を主食にしているのだ。寡聞にして知らなかったが、なんとも不思議な食性である。だけど蚊は季節性の生き物だ。蚊のいない季節は、サラマンダーは何を食べているのか。
 いや、と私はすぐに思い直す。炎でできた生き物が暮らしている場所なら、きっと常夏に違いない。一年中、蚊が生息できる環境なのだろう。
 それならば、と私は名案を思いついた。
「ドライアイスをお土産にすればいい」と私は提案した。「蚊は炭酸ガスに引き寄せられる習性があるんだ。ドライアイスは炭酸ガスを凍らせたものだから、置いておくだけで蚊が集まってくる。上手く使えばお腹いっぱい蚊を食べることも夢じゃないぞ」
 つい、いい加減なことを言ってしまった。
 しかしサラマンダーは私の言葉に感銘を受けたようだった。
「なるほど。ではドライアイスを持って帰ります。どこで売っていますか」
「コンビニにあると思うよ。あ、でも……」
 私は致命的なミスに気づいて顔をしかめた。
「どうかしましたか?」サラマンダーが目敏く訊ねる。
「いや、ドライアイスは熱に弱いんだ。君の体温は何度くらいだっけ?」
「1500℃です」
「……高いな」と私は呻いた。体温が1500℃の生き物がドライアイスを購入したら、受け取った瞬間、炭酸ガスと化して四散するだろう。
 私が説明すると、サラマンダーはがっかりした。
「ああ、それじゃ駄目です」
 サラマンダーがため息をつくたび、熱風が吹きつけてくる。耐えがたい暑さだ。もう我慢の限界だった。
「分かった」朦朧としながら私は言った。「私がドライアイスを購入して、君の故郷に送る手続きをするよ」
「そんなことができるのですか!」
「できるさ。送り先が分かれば、人間世界が誇る宅配便がこの世のどこにでも商品を届けてくれる」
「素晴らしい!」サラマンダーが感動に震えた。体の色が黄色からオレンジに変わり、パチパチと火花が散った。興奮で体温が上がったらしく、室温がさらに上昇した。
 あまりの暑さにぐるぐると視界が回転する。私は壁に手をついて何とか体を支えた。
 サラマンダーは住所を告げた。ゆっくりと二回繰り返した。
 もちろん47都道府県ではなく、郵便番号もない住所だ。当然だ。サラマンダーの故郷なのだから。
「では、頼みましたよ」
 サラマンダーは嬉しげに踊りながら言った。
「ありがとう、ありがとう……」と声が遠ざかっていく。
 私はふわりと気が遠くなり、そのまま意識を失った。
 どれほどの時間が経ったのだろうか。
 気がつくと、私はひんやりした廊下に倒れていた。
 廊下に接していた頬や腕の内側が冷たくなっている。これぞ冬の明け方の廊下だ。
 ゆっくりと上体を起こして頭を振った。
 茫洋としていた気分が、少しずつはっきりしてくる。
 ああ、そうだ。サラマンダーから頼み事をされたんだっけ。
 ドライアイスを送らなければ……。
 そこで私は唖然となった。
 サラマンダーから聞いたはずの住所を思い出せないのだ。
 必死に思い出そうとしたが、駄目だった。
 完全なる忘却、住所の一片さえ覚えていなかった。
 だから私はまだドライアイスを発送できずにいる。
 夢から数日が過ぎた今も、私は落ち着かない気分だ。
 もうサラマンダーは故郷に着いただろうか。
 そしてドライアイスが届くのを、楽しみに待っているだろうか。
 これは夢である。
 現実に誰も困っていないし、誰にも迷惑をかけていない。
 それなのに、私は心のどこかで申し訳なく思っている。
 夢の中で一度だけ邂逅した、サラマンダーとの約束を守れなかったことを。

与太話は以上です。
どうか皆さんの2022年が素晴らしき年になりますように。

posted by 沢村浩輔 at 02:27| 備忘録とかメモ