『探偵と悪党と王〈後編〉』
1
1
ゴルディオン城塞の地下牢は、壁や床から染み出した水が腐ったような臭気を放つ、すこぶる劣悪な場所だった。
こんなところに閉じ込められたら、誰であっても長くは生きられまい。
「これはひどい……」
ネアルコスも地下牢の状況を目の当たりにして、さすがに眉をしかめた。そして部下に命じて鼠の死骸を片づけ、蠅を叩きつぶし、椅子とテーブルを運び込ませた。
「数時間のことだ。辛抱しろ」とネアルコスは二人に言葉をかけた。「あとで簡単な食事を届けよう。ここで食べる気になるかどうかは分からんが」
「ご配慮を感謝する」とホームズは礼を述べた。
「では、な」
厚い樫材の扉が閉まり、外から鍵がかけられた。
「噂通りのいい奴だな。ネアルコスは」ホームズは言った。「僕たちを見つけてくれたのが彼で良かった。他の連中なら、たぶん、こうはいかなかった」
「こうして生きているのは、我々自身の才覚だ。奴のおかげではない」
モリアーティが素っ気なく返す。だが、その声にかすかな暖かさが含まれているのに気づいたホームズは、口元に笑みを浮かべた。
「何がおかしい」
「いや。何でもない」
二人は椅子に腰を下ろした。
しんと静まった牢内に、ときどき天井から滴り落ちた水滴が、床で跳ねる小さな音だけがする。
ホームズはそっと息を吸い込み、鼻腔の奥で分析してみた。空気中にカビの胞子が漂っている。しかも数種類。あまり体内に入れたくはないが、如何ともできない。
憂うべき状況である。しかしそれ以上に我慢できないのは、この無為な時間だった。
偶然の結果とはいえ、いま自分たちは古代オリエントにいる。やりたいことは山のようにあった。それなのに自由を拘束され、地下牢で過ごさねばならないのだ。
ついに堪えきれなくなり、ホームズは思いの丈をモリアーティにぶつけた。
「偉大なるアレクサンドロス大王に会えた幸運を、僕は神に感謝している。だが、もし望みが叶うなら」ホームズは祈るように言葉を紡いだ。「三百年後のエジプトに行ってみたかったよ。首都アレキサンドリアの街を歩き、街の空気を心ゆくまで味わい、アレキサンドリア図書館を訪れたかった! 古代ローマ軍との市街戦で焼け落ちてしまう前の、古代世界の叡智を集めた、あの図書館に!」
「では、もし神が」とモリアーティが意地悪く訊ねた。「故郷のロンドンに戻るか、アレキサンドリア図書館に行くか、どちらかを選べと言ったら、どちらを選ぶ?」
ホームズがその問いに考え込むと、モリアーティが微笑した。
「君は私の最高の好敵手だ、ホームズ。だが惜しいことに善人だ。善人は前提を疑わない。なぜ神が与えた二択を疑わないんだ? どちらも所望すれば良いじゃないか。君ら善人はひとつを獲れば、残るひとつを潔く諦めてしまうが、私に言わせればお人好しが過ぎる。両方手に入れるにはどうすればいいか、それを考えるべきだ。たとえ相手が神であってもな」
いつしかホームズとモリアーティは、自分たちが牢にいることも忘れて、夢中で語り合っていた。
「すでに僕たちは、四度のタイムスリップを経験しているわけだが」ホームズはモリアーティに訊ねた。「時空を跳躍する際の、あの永遠とも思える落下の最中に、君はどんなことを考えている?」
「もちろん、この時代に忌々しい探偵を置き去りにして、私一人が帰還する方法だよ」モリアーティがにやりと笑う。「つまり、秘密ということだ」
「なるほど。正直な答えだ」ホームズは苦笑したが、すぐに真顔になった。「だが、それは無理だと思う」
「ほう、なぜだ?」
「これまでのタイムスリップ現象を観察した上での結論なんだが、おそらく二人一緒でなければタイムスリップは起こらない気がするんだ。君にとっては残念なことに。そして僕にとっては有り難いことにね」
「その結論には、根拠がないようだな」モリアーティが反論する。
「そうだね。あくまでも僕の勘に過ぎない」とホームズも認めた。「しかし、なぜか僕には確信がある。僕も君も、一人では元の時代に戻る方法を見つけることはできないが、二人で対話を続けていけば、いつか答えが天啓のように閃くに違いない、とね」
「いやはや。いつかとか、閃くとか、実に不確実きわまるやり方だな」モリアーティが皮肉な口調で言った。「だが、この世の終わりのような地下牢で黙りこくっているよりはマシだろう。言ってみたまえ」
「ふむ。では思いつくまま語ってみるか」
ホームズはそう呟くと、静かに語り始めた。
「タイムスリップが、ある世界から別の世界へと通じている暗い水路に飛び込む行為だとすれば、それは海図もコンパスも持たずに、大海原に乗り出す無謀な船乗りと同じだ。
生きて帰還できる可能性はゼロに近い。つまり単なる蛮勇でしかない、というわけだ。
多くの人間が賢しらにこう語る。
未来は誰にも分からない、と。
なるほど、その通りだ。
だが過去にタイムスリップした者にとっては、未来が過去となる。
ならば過去もまた、不確実だと言えまいか?
私はこの世界の過去を、ほんの一部しか経験していない。
経験していない過去は、未来と同じく先の見えない霧だ。果てしない好奇心をかき立てる対象だ」
だが、とホームズは続けた。
「未来と過去なら、私は未来を知りたい。
言っておくが過去は大好きだ。可能ならこの目で恐竜の生態を見てみたいし、古代ローマの街道を旅してみたい。シェイクスピアと演劇について語りあえたら、どれだけ素晴らしいだろう。
だが、どちらかしか選べないとしたら、私は未来を選ぶ。未来の街を歩き、人々と話し、その暮らしに触れてみたい。たとえそれが歴史に残らぬ、ささやかな営みだとしても――」
ホームズが話し終えると、今度はモリアーティが口を開く。
「なるほど、気持ちはよく分かる。だが私は君の意見に与しない。
私が好きなのは現在だけなんだ。
2019年の東京に滞在したのはわずかな時間だったが、あのひとときが私にとっての東京だ。
私は、私が存在する東京を愛する。私がいなくなった後の東京がどうなろうと興味はない。
君の時間は、あくまでも1893年で止まっている。おそらく君の中では、君がいないロンドンの時間は止まっていて、自分が戻れば、再び時間が流れ始めると思っているのだろう?
だが私の時間は、私が存在しているこの瞬間だ。
どういうことか、別の言い方をしようか。
2019年の東京では君は異邦人だが、私はそうではなかった、ということだ。
私はあのまま東京で生きていくことができた。日本語も半年あればマスターできるだろう。
しかし君は違う。たとえ日本語を覚え、友人ができ、仕事と居場所を得たとしても、おそらく君は永遠に異邦人の感覚から抜け出せないだろう。それは日本のせいではない。君自身の精神のあり方の問題だ」
「………」
「だが公正を期して付け加えれば、それが普通の人間だ。だからこそ皆、生まれた国、身につけた言葉、育ってきた文化や宗教、年齢と性別、そして肌や髪の色にこだわる。社会的地位と財産にもね。そうでない私が変わっているのさ」
「どうやら君には」ホームズは苦々しく言った。「悪人かそうでないか、の物差ししかないようだね」
「いや。それに加えて、頭がいいか悪いか、の基準もある」
そんな風に意見を交わす時間がどれほど流れただろうか。数十分? いや、数時間か。
壁の高い位置にある小窓から差し込む夕日がいつしか消え去り、窓の向こうは濃紺の星空に変わっていた。
すでにお互いの表情も分からぬほど、牢の中は薄暗くなっていたが、それでも話題は尽きぬのだった。
だが今、二人は会話を止めて耳を澄ませた。
地下牢へと続く階段を、足音が近づいて来たからだ。
ほどなく錆びた音を立てて扉が開き、燭台を手にしたクロワが二人に微笑みかけた。
「遅くなりました。ご希望の品物がなんとか揃いましたよ」
ホームズはクロワが未来から持ち帰ったチャトラジの盤と駒を点検し、満足して頷いた。
「クロワ。君にはどれほど感謝しているか」心を込めて、礼を言った。
「それは良かった。健闘を祈ります」
「ありがとう。ところで」とホームズは言った。「これは四人制のゲームだ。当然、プレイヤーが四人必要になる。僕の言いたいことが分かるだろう?」
「いいえ。さっぱり」クロワが首をかしげた。「では、私はこれで――」
「ゲームをするのは、アレクサンドロス、僕とモリアーティ、そして君だ」
「私に王を負かすゲームへ加われ、と?」クロワが足を止めて驚いたように振り返った。「謹んでお断りします」
「悪いが参加してもらうよ」ホームズは微笑んだ。「通訳が同席していないとゲームのルールを説明できないし、そもそも王と会話ができないじゃないか」
「……やれやれ」クロワが諦めたようにため息をついた。「きっとそういうことになると思っていましたよ」
2
白熱した議論の最中に、ふとモリアーティが黙り込んだ。
「どうしたんだね、教授?」
「気づいているか、ホームズ」とモリアーティが言った。「この時代に来てから、私たちは一睡もしていないことに」
「たしかにそうだ」ホームズも頷く。「昨夜もこんな風に話し込んでいて、朝まで過ごしたんだった」
「我々は大英帝国から遠く離れてここにいる」モリアーティが愉しげに牢を見回した。「辺境の地で生きるための心得がある。『食べられるときに食べ、眠ることができるときに眠れ』だ」
「ああ、聞いたことがある。誰の言葉だったかな……」ホームズは首をかしげて考えていたが、やがて小さなあくびをした。「見たまえ。君がそんなことを言うから、眠たくなってきたじゃないか」
「……実は、私もそうだ」
「では少し眠って、すっきりした頭脳でアレクサンドロスとの対戦に挑もう」
ホームズとモリアーティは椅子に背中を預け、足を組み、腕を組んで、静かに目を閉じた。
だが二人が眠りに落ちる前に、一人の男が牢を訪ねてきた。どこか老成した雰囲気をもった醒めた眼差しの若者で、クロワを連れている。
「この方は、プトレマイオスです」クロワが男を紹介した。「ぜひお二人に会いたいというのでお連れしました」
プトレマイオスだって! ホームズは眠気など吹き飛んでしまった。後に古代エジプトのプトレマイオス朝を創設する人物である。
プトレマイオスの従者が二人に熱いお湯の入ったカップを手渡した。
「君たちは未来から来たのか?」
カップに口をつける前に、プトレマイオスが訊いた。淡々とした物憂げな声だ。
「ええ」とホームズは頷いた。「その通りです」
「ならば、私の未来を知っているだろう。それを教えてくれ」
ホームズは小さく首を振った。
「残念ながら、お答えするわけにはいかないのです」
「なぜだ?」
「未来は誰にも分からない、という前提で世界は成立しているからです」とホームズは説明した。「私は未来を知っています。ですが、それを教えれば、前提が変わり、未来も変わってしまうのです」
じっと耳を傾けていたプトレマイオスが、なるほど、と呟いた。「そうかもしれん。いや、きっと、そうなのだろう」
ホームズはプトレマイオスの理解力の鋭さに舌を巻いた。
「では、当然ながら」プトレマイオスがゆっくりと訊ねた。「他の者にも未来を告げることはしないのだね?」
「もちろんです」
「アレクサンドロスが命じたとしたら?」
「話せません。たとえ殺されたとしても」ホームズはきっぱりと言った。
「そうか。よく分かった」プトレマイオスは人差し指を曲げて従者を呼んだ。「すまない、私があれこれ訊ねたので、せっかくの湯が冷えてしまった。熱い湯に入れ替えさせよう」
プトレマイオスが去った後、ホームズは肩をすくめた。
「きっと最初のお湯には毒が入っていたね」
「だろうな」モリアーティも同意した。「もし我々が他の側近たちを利する可能性があれば、躊躇なく殺すつもりだったのだろう」
「アレクサンドロスにはまだ子供がいないから、王の身に不測の事態が起これば、誰もが後継者候補になれる。重臣たちは皆、そのときにどうするかを考えているはずだ」ホームズはにやりと微笑んで湯をひとくち飲んだ。「おかげでプトレマイオスに毒殺されかけるという貴重な経験ができたよ」
「実に冷酷で頭のいい男だったな」モリアーティもうまそうに湯をすすった。「だからこそ大王の後継者争いを生き延びて、エジプトに自分の王朝を建てることができたのだろうな」
結局二人はネアルコスが迎えに来るまで、一睡もせずに話し込んでしまった。
「準備はできているか」とネアルコスが確認する。
「ええ。いつでも始められます」
「では案内する。ついてこい」
3
王が試合場所に選んだのは、街を一望できる城塞上階のテラスだった。
テラスの中央には、円卓と四脚の椅子が用意され、周囲にかがり火が焚かれている。
ホームズは円卓の上に盤を置き、緑、青、黄、白の王の駒を、盤の中央に並べた。
「他に必要な物はないか」とネアルコスが訊ねた。
「ありがとう。これで充分です」とホームズが答えた。ここへ来る前にホームズとモリアーティは、小刀を借りて髭を剃り、湯を浸した布で体を拭いたので、すっきりとした表情だ。
「ほう、いい眺めだ」モリアーティが手すりに肘をついてゴルディオンの市街地を見下ろした。
「もしかして」ホームズはネアルコスに訊ねた。「昨夜、王が流れ星を見たというのは、この場所ですか?」
「そうだ」
「私たちが落ちたのは」モリアーティが仄かに明るさが残る西の丘を指さした。「あの向こう辺りだな」
どこからか賑やかな声が近づいてきた。と思う間もなく、
「待たせた」
とアレクサンドロスがテラスに入ってきた。重臣たちを引き連れている。
王が上座に着くと、三人も腰を下ろした。
アレクサンドロスとクロワ、ホームズとモリアーティが向かい合うかたちだ。
テーブルを挟んで対峙したアレクサンドロスは、眩しいほどの自信に満ちていた。
この若きマケドニア王が、僅か十年でギリシアからインドまで跨がる大帝国を築き上げ、三十二歳で亡くなることを、ホームズは知っている。
もちろん当のアレクサンドロスはそんな未来を知る由もなく、テーブルの上に置かれた盤面と駒が収められた小箱を興味深げに眺めていた。
「これがチャトラジか。なかなか面白そうだ。さっそく始めよう」
「まずは、お好きな色をお選びください」
王は迷うことなく白を選んだ。モリアーティは青、クロワは黄、ホームズは残った緑をとった。
「私と同じように、駒を並べていただけますか」
ホームズは8x8マスある盤面の左下から、右に向かって船、馬、象、王を置き、二段目に4つの兵を並べた。
王が同じように並べると、駒の名称と動かし方を説明した。
@王……8方向に1マスずつ。チェックを受けたとき、隣り合っている自分の駒と位置を入れ替えることができる。
A象……縦か横に好きな数だけ動かせる。
B馬……上下左右に2マス移動した後、さらに直角方向に1マス動く。
C船……斜め方向に2マス。移動先の敵駒だけでなく、跳び越えた敵駒も捕獲できる。
D兵……前に1マス。ただし敵駒を捕獲するときは斜め前にも動ける。
「一人ずつ順番に、自分の駒をひとつ動かします。動かした先のマスに相手の駒があれば、その駒を捕ることができます。ただし自分の駒があるマスには移動できません。そして自分の順番のときに駒を動かさない選択もできます」
「相手の王を捕獲すれば勝ちということだな?」
「はい」
「分かった」
「ゲームを始めるにあたり、提案がございます」とホームズは言った。
「言え」
「最初のゲームは練習として勝敗はなし、二度目を本番としてはいかがでしょうか」
「よかろう」
「あとひとつ。私とモリアーティが勝てば放免される約束です。必然的に私たちはお互いを助け合うことになります。そこでクロワはアレクサンドロス様を補佐する役割を担うことにされてはいかがでしょうか? 私とモリアーティ、アレクサンドロス様とクロワがそれぞれチームを組んで対戦すれば、公平になるかと存じます」
「たしかにそうだな。よし、それでいく」
最初のゲームでは、王はじっくり時間をかけて考え、慎重に駒を動かした。
驚くことに、アレクサンドロスは一度も凡手を指さなかった。
生まれて初めて経験するゲームなのに、驚異というしかない。
ホームズはいつしか首筋に冷たい汗をかいていた。現時点で自分とモリアーティが何とか勝っているのは、豊富なチェスの経験があるからだ。アマチュアとしてトップレベルの強さだと自負している。それなのに、たった一度練習しただけで、王は二人と対等に渡り合っていた。モリアーティの表情も苦い。彼が繰り出した相当に高度な〈嵌め手〉が見抜かれてしまったのだ。
ホームズは、人類の歴史の中でも五本の指に入るといわれる天才戦術家の冴えを見せつけられる思いがした。
「王は本当にこのゲームを初めてなさるのですか?」ため息をつきながらホームズは訊ねた。「すでに百戦錬磨の戦い方でいらっしゃいます」
「私はこのゲームを戦争のつもりでやっている」アレクサンドロスが答えた。「戦争とは一度きりの勝負だ。負ければ次はない」
ホームズもモリアーティも、言葉を返せなかった。
「よし、練習はもうよい」アレクサンドロスが手を止めて言った。「おおよそのコツは掴めた。まだ途中だが、このゲームを終了し、本番を始めよう」
四人は駒を元の位置に並べ直した。
駒を並べながらホームズは考える。先のゲームでホームズは本気を出していない。おそらくモリアーティもそうだ。二人は八割の力でゲームを進め、ほぼ互角の試合だった。もちろん次は全力で行く。それでも勝率は……六割あるかどうかだろう。
4
「ずいぶん慎重な戦い方でいらっしゃいますな」とモリアーティが言った。ややぞんざいな口調だ。挑発の意図もあるのだろう。実際、ホームズもモリアーティも、ほとんど王の駒を獲得できていなかった。盤上には風が吹かぬ戦況が続いていた。
アレクサンドロスはちらりとモリアーティを眺め、盤面に視線を戻した。
「当然だ。私が動かしている駒はマケドニア兵だ。無駄死にはさせられぬ。させなくても、勝てる」
そして王は初めてパスをした。指す手に困ったゆえのパスではない。ほぼ完璧な防御を敷いた上で、相手を誘っているのだ。
そう、〈ほぼ〉完璧だった。アレクサンドロスの陣形にはかすかな綻びがあった。その綻びにホームズは気づいたが、それが意図的なものかどうかが分からない。
通常ならホームズは躊躇うことなくその弱点を攻める。しかし相手は戦争の天才、アレクサンドロスである。罠である可能性が充分にあった。
ホームズは考えた末、罠だと判断してパスを告げた。予想通りクロワもパスした。順番はモリアーティに回った。
モリアーティは内心でひどく腹を立てていた。ここまでホームズの駒の動きから彼の作戦を読み取り、彼の意図を補強する手を指してきた。その結果がこれだ。ホームズの作戦は手堅く、勝利に向かい一歩一歩進んでいた。
だがモリアーティはその堅実さが気に入らなかった。ホームズの指し手には遠慮があった。たしかに目の前の若者は並の人間ではない。私がこれまで出会った中でもっとも大きな器量を備えた者かもしれない。その男が勝てば命を助けると約束した。そして、このままゲームを進めれば、確実に我々が勝つ。
それなのに、なぜ僅差で勝とうとする? 臆したか? 絶対君主の機嫌を損ねるのが怖いのか? 私は違うぞ。私はアレクサンドロスを容赦なく打ち負かしたい。実戦では生涯負けなかった天才をこてんぱんに負かして、くちびるを噛みしめる姿を見てみたいのだ。だがこのままでは、その願いは叶えられそうにない。
モリアーティは思う。シャーロック・ホームズは世評通りなかなかに気難しい男だが、一緒に旅をして分かった。私の方が遙かに狷介な魂を持っている。
名探偵よ、私がゲームの最中、何を考えていたか分かるか?
考えていたのは、クソ生意気な王をこの場で殺し、三万を超えるマケドニア軍の追撃から逃げ延びる方法だ。そんなことは不可能だと思うか? ところが、私なら逃げ切れる。その方法を知りたいか? 知りたければ私の前に跪いて教えを請うがいい。
「パスします」内心の怒りを毛ほども出さず、静かにモリアーティは告げた。さて、どうする、アレクサンドロスよ。これで動かざるを得なくなったぞ。
しかしアレクサンドロスの反応は、モリアーティが予想していなかったものだった。
王の双眸から、みるみる興味の光が消えていったのだ。
「たしかに面白いゲームだ」とアレクサンドロスは言った。「だが所詮は遊びに過ぎぬ。勝っても負けても、私の魂は冷たいままだ」
「恐れながら、まだ二度目です」王が態度を一変させたことに戸惑いながら、ホームズは言葉を返した。「それを判断するには早すぎませんか」
「私は一度目のゲームで、そう感じていた」
「お気に召しませんでしたか」
「そうではない。面白いと言ったぞ」アレクサンドロスがホームズに訊ねた。「私が考えていた次の一手が分かるか?」
慎重に考え、ホームズは答えた。
「船を私の陣地まで進めるのではないか、と予想しておりました」
「良い手だな。お前はどうだ、悪党よ」
「象を用いて私の馬を狩る……。そう考えていました」とモリアーティが答えた。
「それも悪くない。では、人ならざる者よ、お前はどう思う?」
バレていたのか! クロワの顔が青ざめた。だがすぐに穏やかさを取り戻して答えた。
「私は駒の動かし方を知っている程度でございます。王のお考えなど想像も及びません」
「上手く逃げたな。まあよい。私が指したかったのは」
アレクサンドロスが手を伸ばして王の駒をつまんだ。そして1マス先へ置く。「こうだ」
三人は沈黙した。まったく意味のない一手だったからだ。
「そう、王が動いても状況は何も変わらぬ。この盤上では、な」
アレクサンドロスがつまらなそうに言った。
「現実の戦いなら、私が動けば即座にパルメニオンが、クラテロスが、フィロータスが私の意を汲んで動き出す。そして長年の鍛練を積んだ兵たちが、彼らの指示を体現して敵を打ち倒す。その瞬間、マケドニア軍全体が私の手足となる。そのときの高揚は何物にも代えがたい。だがこのゲームでは、駒は意志を持たぬ。何度戦いを重ねても、彼らはまったく成長しない。それが退屈でならぬのだ」
アレクサンドロスの心はすでに盤上にはなく、次の戦場へと飛んでいるようだった。
「マケドニア軍は戦うほどに強くなる。だから私は命がある限り前に進み続ける。退くという選択肢はない。時の流れも然り。戻ることはできぬ。人の一生も同じだ」
ホームズはアレクサンドロスの言葉に胸を貫かれた。
確かに若き王の言う通りだった。
この世界にいるならば、その法則からは何人も逃れることはできない。
だが――。
タイムスリップはこの世界とは違う時空を通過する。
そこでは、この世界の法則は通用しない。
別の法則で成り立っている場所なのだ。
だから1893年のロンドンに戻るためには、アナザーワールドの法則に従う必要がある。
僕たちはあの世界にいるとき、常に落下していた。
無限にも思える広大な空間を落ち続け、次の場所にたどり着く。
つまり、アナザーワールドでは落ちることは即ち進むことなのだ。
ホームズは呆然となった。
何てことだ! 僕たちは1893年のロンドンに行こうとしていた。
そうじゃない。逆だ。
行くのではなく、戻るのだ。
僕たちは出発地点に戻らなければならなかったのだ!
僕たちの体が静電気を帯びるとき、それはタイムスリップが可能になったサインだ。
その合図を受けて高所から飛び降りることで、タイムスリップを発動させる。
しかし、その方法では進むことしかできない。戻らなければならないのに、だ。
戻るためには、上昇しなければならなかったのだ。
当然の結論だ。自由落下で〈進む〉のなら、同じ速度で上昇すれば〈戻る〉はずだ。
それが正しいかどうかは、実際に試してみるしかない。
だが、どうやって?
ホームズの脳裏に、スピリット・オブ・セントルイス号の姿が浮かんだ。
ああ、飛行機があれば……。
今なら分かる。あのときが〈戻る〉絶好のチャンスだったのだ。
それなのに僕たちは、その千載一遇の機会をみすみす逃してしまった。
大英帝国の首都、ロンドンの光と影を代表する才能が揃っていたにもかかわらず!
くそ、どうすればいい?
いや、答えは明らかだ! ホームズは自分の脳細胞がスパークするのを自覚した。彼は軍船のコマを取り上げると、三つ先のマス目に置こうとした。
その手をモリアーティが押さえた。
「待て、ホームズ。なぜだ?」
モリアーティの問いは当然だった。なぜなら、そこに軍船を置けば、十三手の後、ホームズとモリアーティは負けることになるからだ。
「理由を訊きたいかね、教授?」
「我々は負ければ死ぬことになる。説明の義務があると思うが」
二人のやりとりを、クロワは凪いだような静かな眼差しで、アレクサンドロスは双眸に好奇心を取り戻して見つめていた。
「分かった」ホームズは頷いた。「クロワ。王に作戦会議のために少し時間をいただきたい、と伝えてくれ」
クロワの言葉を聞いたアレクサンドロスは、「許可する」と言った。「命のかかった真剣勝負だ、遠慮なくやれ」
「ありがとうございます」ホームズは礼を述べ、モリアーティに向き直った。「とはいえ、王を長く待たせるわけにはいかない。ひとことで説明するぞ」
「そうしてくれ」
モリアーティは、ホームズをじっと見つめた。
アレクサンドロスは、我々がゲームに勝てば命を助けると約束した。
だがホームズは意図的に負けようとしていた。
最善手を指し続ければ勝てるのに、奴は勝利を自ら手放そうとしている。
「なぜだ?」とモリアーティは問うた。
「もう一度、空を飛びたいからさ」とホームズは答えた。
モリアーティは、その言葉の意味を考えた。そしてはっとした。
そうか。そういうことか。
ならば、とモリアーティは覚悟を決めた。私も協力せねばなるまい。
問題は、鋭敏な王に気づかれずに、この計略を進めることができるかどうか、だ。
さすがのモリアーティも自信はなかった。だが、実に面白い。
5
こうして十三手の攻防の後、決着がついた。
勝負はアレクサンドロスとクロワ組の勝利に終わった。
だが、勝利したにもかかわらず、アレクサンドロスはどこか不機嫌そうに黙っている。
代わりにへファイスティオンが沈黙を破った。
「何をしている」と彼は護衛の兵に命じた。「王の勝ちだ。この二人を拘束せよ」
アレクサンドロス最側近の命令に、兵士たちが弾かれたように動いた。
「さあ、来い」兵士が二人の肩に手をかけ、乱暴に立ち上がらせる。
「待て」とアレクサンドロスが言った。
兵たちが慌てて手を放す。
「お前たちにもう一度だけ、チャンスをやろう」
王はホームズを見つめながら言った。
「お前は謎解きの専門家だという。ならば丁度いい。私はいま、ひとつの問題に直面している。これまで長きに渡り、誰ひとり解くことができなかった難問だ」
「どのような問題でしょうか」ホームズが訊ねた。
「実物を見ながら説明しよう」アレクサンドロスは席を立った。「ついてこい」
アレクサンドロスが向かったのは、城塞に隣接した丘の上にある、ゼウスを祀った神殿だった。神殿の一室に、ミダス王が奉納したと伝えられる荷車が保管されていた。
この荷車の轅(ながえ:馬車の前方に突き出た二本の棒)には、ミズキの樹皮でできた紐が固く結ばれており、この紐を解いた者はアジアの王になるという伝説があった。しかし結び目があまりにも複雑なため、荷車が奉納されてから数百年が経つが、未だこの結び目を解くことができた者はいなかった。
「この結び目を解く方法を教えてくれ。そうすれば、お前たちの命を助けよう」
ホームズは興味深げに荷車を眺めてから、王に視線を戻した。
「答えはすでに」ホームズは厳かに言った。「王の胸の内にあります。お心のままに振る舞えばよろしいかと存じます」
しばらくホームズを見つめていたアレクサンドロスが、モリアーティに視線を移す。
「お前も、その答えでよいのか?」
「はい」とモリアーティも答えた。
「……そうか」と言うと、アレクサンドロスは荷車の前に立った。そして数秒のあいだ荷車の轅を固く結んだミズキの樹皮を見下ろした。その結び目は複雑怪奇で、目を凝らしてみても、どう解けばいいのか見当もつかなかった。
物音ひとつない静寂が流れる。
居並ぶ重臣たちが、息を殺して王の後ろ姿を見つめている。
アレクサンドロスが軽やかに、そして無造作に剣を抜き、振り下ろした。次の瞬間、ふたつに切断された紐が、音もなく床に落ちた。
王はカチリと音を立てて剣を鞘に戻すと、こちらに向き直った。
「おお!」へファイスティオンが声を上げて、王に駆け寄った。「お見事です、アレクサンドロス」
へファイスティオンが神殿の天井に向かって叫んだ。
「ミダス王よ、ご覧あれ。マケドニアのアレクサンドロスが見事に謎を解いたぞ!」
全員の胸にその言葉が染みこみ、じわじわと感動が広がっていく。
「伝説では、この結び目を解いた者はアジアの王になるという」プトレマイオスが皆に向かって言った。「今日、まさにアレクサンドロスはマケドニアのみならず、全アジアの王となったのだ」
「うおーっ!」歓声が弾け、部下たちが王を取り囲んだ。「アジアの王、アレクサンドロス! 万歳!」
アレクサンドロスは片手を上げて、部下たちの賛辞に応えた。
少し離れたところでは、王の伝記作家たちが、巻紙の上にペンを走らせ始めた。王の言動を嘘にならぬ範囲で、いや、ときには多少の彩りも加えながら、王の叡智と勇敢さと威厳を、修辞の限りを尽くして書き綴るのである。そして、このゴルディオン伝説の一幕は、王の数多い英雄譚の中でも指折りのエピソードのひとつになるだろう、と作家たちは確信していた。当然ながら彼らの筆致は熱を帯び、最大の読者であり批評者である王に気に入られるよう、記述の取捨選択に創意工夫が凝らされた。その結果、これらの伝記を読み比べた後世の歴史家を、「お前ら全員その場にいたんだよな? それなのに、どうして伝言ゲーム並みに内容がばらけてんだよ?」と嘆かせるほどの、多彩なバリエーションが展開されたのである。
話が逸れた。元に戻そう。
部下たちの高揚が静まるのを待って、アレクサンドロスが歩き出した。取り囲んでいた一群が左右に分かれる。
王はホームズとモリアーティの前で足を止めた。
「残念ながら、お前が謎を解いたとは言えぬ」
「はい。解かれたのは王です」
「ならば――」
一瞬、言い淀んだアレクサンドロスが続けた。
「明日の朝、約束通り、お前たちを処刑する。よいな?」
「承知いたしました」とホームズが言った。「ですが、ひとつお願いがございます」
「言ってみろ」
「王は素晴らしい攻城兵器をお持ちです」
マケドニア軍には、先王フィリッポス二世が開発した最先端の攻城兵器があり、アレクサンドロスは地中海沿岸の都市と戦う際に、石や大弓を放つ攻城兵器を存分に活用していた。
「持っている。それがどうした」
「あの投石機で、我々を空高く飛ばしていただきたいのです」
「なんだと?」アレクサンドロスが意表を突かれたように黙った。対照的に、成り行きを見守っていた背後の者たちはざわめいた。
「……なんと、正気か?」誰かの囁き声がする。
「あれは巨大な石の塊を城壁に叩きつけるためのものだ」と別の誰かが言う。「人など飛ばせば、遙か上空に舞い上がり、そのまま地面に激突して血と肉の破片と化すぞ」
「そのようなむごたらしい死に様を、自ら望むとは……」
「異国の者どもの考えることは、理解できませんな」
「いや、まったく」
アレクサンドロスは訝しげにホームズを眺めていたが、その表情がわずかに動いた。王の目に感心したような、呆れたような色が浮かび、口元だけで微笑した。
「分かった。その望みを叶えよう」
一同が再びどよめいた。
「お前たちは最後まで私を楽しませてくれた」アレクサンドロスは言った。「その礼はする」
ホームズとモリアーティは、ふたたび地下牢に移された。
二人はお互いに離れた場所に腰を下ろし、しばし物思いに耽った。
「ホームズ」とモリアーティが訊いた。「さきほど大王は礼をする、と言ったな? 礼を言う、ではなく」
「たしかに礼をすると言ったね。言葉通りの意味だろう。それができるのは」ホームズは敬意を込めてその名を口にした。「アレクサンドロスだけだ」
6
翌朝、ゴルディオンの郊外に、二台の投石機が据えられた。
よく晴れた、風の強い朝だった。
投石機から少し離れた小高い丘の上に、ホームズとモリアーティは立っていた。
これから自分を空高く放り上げることになる投石機をしばらく見つめた後、ホームズは背後を振り返った。
正面にアレクサンドロスがいた。王の両側に重臣たちが並んでいる。大半の者は面白い見世物を楽しむ顔だ。プトレマイオスは無表情で、ネアルコスは痛ましそうな目でこちらを見ていた。そして伝記作家たちは見晴らしのいい場所に陣取り、巻紙とペンを手にこれから起こるできごとを書こうと待ち構えている。
「ひとつだけ心配なことがある」ホームズはクロワに言った。「伝記作家は僕たちのことも書き留めている」
「ええ。それが彼らの仕事ですから」
「僕たちの存在が後世に伝えられるのはまずくないか?」
「ご心配なく。彼らの記録の中から、お二人に関する記述だけがいつのまにか消えてしまい、後世に残らなかったのです。不思議なことですが」
「とぼけるな」モリアーティがにやりと笑う。「お前のしわざだろう」
「さあ。どうでしょうか」
「シャーロック・ホームズ。ジェイムズ・モリアーティ」とアレクサンドロスが声をかけた。
二人は王に向き直り、続く言葉を待った。
「お前たちの旅は、これで終わりではあるまいな?」
周囲の者には奇妙に聞こえる問いだろう。なぜか王の声にはかすかな願いが込められているように思えた。
「私たちは、未だ旅の途上にあります」とホームズは答えた。
「そうか」アレクサンドロスは微かな安堵を浮かべて頷くと、きびきびとペルディッカスに命じた。「この二人を投石機で飛ばせ」
ホームズとモリアーティは兵に槍を突きつけられたまま、投石機に向かって歩いて行く。
「教授。君に謝らねばならない」ホームズは前を向いたまま言った。「正直に言うよ。僕の仮説が当たっている確率は甘く見積もっても一割だ。つまり九割の確率で死ぬことになる。その危険な賭に、君を巻き込んでしまった」
「勘違いするな、ホームズ。私が今ここにいるのは、私自身の意志だ」モリアーティも前を向いたまま答える。「ついでに言えば、私の見立てでは、お前の仮説は九割当たっている。ならば死ぬ確率は一割に過ぎん。こうして投石機で飛ばされるのは悪い選択ではない」
ホームズは微笑んで言い返した。「君が僕の分析にそこまで信頼を置いてくれるとは、光栄の至りだね」
二人は投石を載せる台に上がり、両手で木枠を握りしめた。
「次に目が覚めたら、倫敦に戻っているかな?」
「それでは理屈に合わない。我々はここまで四度も時を超える旅をした。一度でスタート地点に戻るのは虫が良すぎる」
「ハハ。たしかにそうだ」
ふいに二人の全身が静電気に包まれる。
「よし。放て!」ペルディッカスが射出兵に命令した。
投石機によって打ち上げられたホームズとモリアーティは、ゴルディオンの空高く放物線を描いて飛んでいき、地面に激突する寸前で眩い光を放ちながら消えた。
「ああ……」
その瞬間、ネアルコスは悟った。遙かな未来から時を超えてやって来た二人が今、別の時代に旅立って行ったのだと。
「……そういうことか」ネアルコスは、なぜホームズが攻城兵器で飛ばしてくれと望んだのか、ようやく理解した。二人が命を賭けた勝負を挑み、わざと負けた(それはネアルコスにも分かった)ことを不思議に思っていたが、そうではなかった。負けなければならなかったのだ。
そして――。ネアルコスは若き王の横顔をそっと見つめた。アレクサンドロスは私よりもずっと早く、ホームズたちの意図に気づいていた。
「この世界には、時間を旅する者がいる……」
アレクサンドロスが小さく呟くのを、ネアルコスは聞いた。
しばらくのあいだ、ネアルコスは、王が自分も投石機で跳んでみたいと言い出すのではないかと緊張した。
その静寂は、ペルディッカスの、「探索隊を落下地点に差し向け、探させますか」という声で破られた。
「いや、よい」と、王は首を振った。「おそらく見つかりはしないだろう」
そう言うとアレクサンドロスはマントを翻し、城に向かって歩き出す。
乾いた風だけが吹き渡る荒野を一瞥して、ネアルコスは王の後を追った。
(第四話 終)
この小説を書くにあたり、主に以下の著書を参考にさせていただきました。
篤くお礼を申し上げます。
『興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話』 森谷公俊 講談社学術文庫
『図説 アレクサンドロス大王』 森谷公俊 河出書房新社
『ヒストリエ』 岩明均 アフタヌーンKC 講談社
『アレクサンドロス』 安彦良和 文藝春秋社